培養肉について
従来肉の抱える課題と培養肉が解決すること
国連によると、世界的な人口増加により2050年には人口が91億人に達すると言われており、今後の新興国の経済発展も影響して世界的にタンパク質の供給が不足すると予測されています。
(引用:United Nations 「The 2019 Revision of World Population Prospects」より URL:https://population.un.org/wpp/)
一方で、これ以上畜産によるタンパク質の供給を増やすことは、飼料・水・土地といった資源が莫大に必要なことに加え、畜産業による温室効果ガスの排出量が増えてしまうことも懸念されています。
また、無理のある畜産では衛生面のリスクも高まります。過去にも豚コレラ・鳥インフルエンザといった感染症がまん延したことがありました。
動物の感染症は人体へのリスクが懸念されるとともに、経済的な損失にも繋がります。
(代替タンパク質普及の背景や従来肉の課題の詳細については、こちらの記事をお読みください。https://note.com/integriculture/n/ndd97f72b13b7)
これらの課題を解決すべく、現在注目されている代替タンパク質源の1つに培養肉があります。
培養肉は牛や鶏の細胞を採取し、培養して細胞を増殖させることで作り出される肉です。
従来肉に比べて食肉の生産サイクルが早いこと、資源の消費量が少ないこと、衛生管理された環境で製造することで衛生リスクが圧倒的に低いことに加え、アニマルウェルフェア、クルエルティフリーといった面からもサステナブルな食材として世界的に研究開発が進められています。
培養肉を取り巻く現状
A.T. Kearnyによれば2040年の食肉市場における代替肉の市場シェアは60%まで成長、そのうち培養肉のシェアは35%まで拡大すると予測されており※、そうなれば代替肉の市場規模は1兆ドルを超える巨大市場になります。
※参考:A.T. Kearny「How will cultured meat and meat alternatives disrupt the agricultural and food industry2019」
培養肉市場においては、Eat JUST社(アメリカ発のベンチャー企業)が、2020年12月にSFA(シンガポール食品庁)の認証を取得し培養鶏肉の販売を世界で初めて開始しました。この培養鶏肉は抗生物質を使用しておらず、微生物の量も従来の鶏肉より少ない、と同社は説明しています。
また、Memphis Meats社は2016年に培養ミートボール、17年に人口家禽肉(鶏肉)の製造に世界で初めて成功しました。
同社は同年にビル・ゲイツ氏、リチャード・ブランソン氏やVCから1,700万ドルを調達し、翌18年には食肉大手のタイソン・フーズからも資金調達、20年にはソフトバンクグループ、シンガポール政府が支援する投資会社Temasekなどから1億6,100万ドルを調達しており、投資家にとっても培養肉が注目市場であることが分かります。
一方で、課題もあります。
Mark Post氏(モサミート創始者)は牛の幹細胞を使った培養肉ハンバーガーの製造に世界で初めて成功しましたが、200gあたり約3,000万円と、実用化のためにはコスト削減が必要です。
細胞を培養するための培養液には成長因子が必要ですが、現状は成長因子のコストが高いことが培養肉のコストを押し上げる要因になっており、培養肉を研究する企業にとって、本課題を解決することは1つの大きな目標となっています。