カルネット コンソーシアム、細胞農業に特化した日本発のオープンイノベーションプラットフォーム運用4年目の開発進捗の紹介-4領域の開発プロジェクトと複数の特許出願、細胞農業の製品化を予定-
細胞農業は、持続可能で新しい食資源の選択肢であり、将来のタンパク質クライシスに対する革新的な解決策としても注目される産業領域です。細胞農業は、環境負荷の低減や穀物資源の節減の観点から期待されている一方で、産業としてスケールアップしながら社会実装していくためには、各種要素技術の開発や最適化、さらには、培養肉の特徴を活かした製品開発やサプライチェーンの構築が必須です。
インテグリカルチャー株式会社(本店:東京都文京区、代表取締役:羽生 雄毅、以下「当社」)は、コア技術であるCulNet® system (カルネット システム)を始めとする最先端の細胞培養技術に強みを持っていますが、核心となる生産技術の開発では、各分野で高い技術を有する企業との協業がカギになります。
細胞農業の社会実装に向け、2021年4月から、当社が研究開発で培った世界でも例を見ない知見と技術をベースに、関連分野において高い技術力を持つ企業様を連携するプラットフォーム「CulNet®︎(カルネット) コンソーシアム」(以下「コンソーシアム」)を創設し、今年で4年目を迎えました。このプラットフォームでの取組みを通じて、当社はいくつもの共同研究プロジェクトを進めております。今回のリリースでは、コンソーシアムが生み出した主な成果を紹介します。
コンソーシアムの全体の開発状況
コンソーシアムの参画企業は2024年9月1日時点で15社、4つの領域における各種要素技術の開発を目指してプロジェクトを進めております(図1)。現在、培養肉の製造工程の構築がほぼ完了したところであり、日本初の上市に向けてさらなる取組みを進めてまいります。
コンソーシアムでは、参画企業様の高い技術力を活かしていただきながら、細胞農業における技術的な課題の解決に向けて、実効性のある形で協業を進めてまいりました。その結果、コンソーシアムの発足からわずか4年目で、細胞農業分野における特許出願数が10件(予定を含む)に達し、今後のさらなる開発が期待されております(図2)。
特許庁が報告した令和4年の「ニーズ即応型技術動向調査(培養肉関連技術)」によると、コンソーシアムの4年間における特許出願件数は、2013年から2019年までの日本全体の総特許出願件数の22.7%に相当し、研究開発において日本で最も積極的な組織と位置付けることができます(参考リンク1)。コンソーシアムでは、今後さらに開発を加速させ、細胞農業の産業化と社会実装を目指します。
参考リンク1特許庁 ニーズ即応型技術動向調査「培養肉関連技術」(令和3年度機動的ミクロ調査 概要版)
図1. 培養肉(アヒル肝臓由来細胞)製造フローに則した成果と各要素技術の開発状況
図2. コンソーシアムにおける特許出願件数の推移
具体的な参画企業様の開発プロジェクトのご紹介(4社をピックアップ)
<基礎培地のコスト削減>
日本たばこ産業株式会社/テーブルマーク株式会社
細胞農業の普及に向けた課題の一つは、培地のコストを下げることです。私たちは、高加工度の原料使用を最小限に抑えた、食品原料からなる基礎培地を開発しています。
<基礎培地の食品グレード化による費用対効果の追求>
ナカライテスク株式会社
培養肉が消費者の元に届くまでには様々な技術が必要です。その中で私たちは培養肉を育てるための培養液に着目し、食品にも使われている安全・安心な原材料を使った費用対効果の高い培養液の開発に取り組んでいます。
<3次元足場の食品グレード化>
三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
当社は3次元培養を実現できる足場を開発しました。この足場は食品グレードの素材でできており、従来にない高密度で様々な細胞を培養することができます。当社は足場の性能向上や培養条件の適正化に取り組んでいきます。
<高機能材料を用いた細胞有用因子の供給性能向上検討>
UBE株式会社
培養肉の安定生産には、臓器細胞が出す有用因子を長期間安定的に供給することが必要です。我々は、細胞の置かれる環境を居心地良くすることによって、これらの課題を解決することに挑戦してまいります。
コンソーシアムでの成果が得られていることもあり、会員は拡大傾向で、来年度も新たな企業の参画が予定されております。コンソーシアムで開発された成果や製品は、当社の新サービス「勝手場」での展開も検討しております。 当社は、会員企業様と最新の情報を共有しながら、細胞農業の社会実装による持続可能な未来への道を切り開いていきます。
インテグリカルチャー株式会社 代表取締役:羽生 雄毅 からのメッセージ
現在、細胞農業業界が直面している課題には、バイオ医薬品から食品グレードへの移行、生産規模、品質保証、知的財産権などがあり、その多くはサプライチェーンの未整備に起因していると考えています。私たちは、CulNetコンソーシアムのような協力体制こそが、この「鶏が先か卵が先か」といった状況を打破する最も有効な方法の一つだと確信しています。コンソーシアムの発足から数年が経過しましたが、革新にはまだ時間が必要です。当社は、今後もこの長期的な取り組みを継続してまいります。
■ インテグリカルチャー株式会社
< https://integriculture.com >
当社は、2015年創業の日本で最初に誕生した細胞農業企業です。細胞農業は、近い将来においてタンパク質の需要が供給を上回ってしまう「タンパク質クライシス」に対する一つの解決策として期待される新たな産業である一方で、細胞培養自体が高価な生産方式であることや食品としての安全性が確認されていないといった課題があります。
当社では、独自技術である「CulNet® system (カルネット システム)」による細胞培養の大きなコストダウンの可能性を開くとともに、既に食経験のある原材料だけを用いた細胞培養資材の開発に成功しました。今後はこれらの技術を最大限活用しながら、培養細胞を原料とした食品の上市に取り組むとともに、さらなる研究開発を進め、新たな食としての可能性を実感していただける細胞農業の実現と普及を目指してまいります。
■ CulNet® system (カルネット システム)
カルネット システムは、動物体内の臓器間相互作用を模したシステムです。当社は、ラボスケールの実証実験において、カルネット システムによる血清様成分の作出に成功しました。これにより、細胞培養で必須であるとされていたFBSや成長因子を添加しない細胞培養を実現しました。なお、FBSは、コストとアニマルウェルフェアの両面で課題があると考えられており、その代替が求められてきました。カルネット システムは、FBSや成長因子を必要としない「低コストな細胞培養」を実現する細胞農業のプラットフォーム技術として期待されています。
■CulNet®️(カルネット) コンソーシアム
2050年には世界人口が100億に達すると見込まれ、エネルギー、飼料、土地、水などの枯渇により、これまでの方法ではタンパク質の供給が追いつかなくなることが危惧されております。食肉に代わるタンパク質源として、植物由来原料などが商品化されるとともに、より食肉に近い代替タンパク質として動物細胞由来の培養肉が注目されています。
しかしながら、生産コスト、安全性、大規模化などの点で課題が山積しているため、様々な領域で高い技術力を有する企業様に参画していただき、培地、足場、培養装置などの課題解決に取組み、培養肉のサプライチェーンを実現することを目的として、2021年4月1日、カルネット コンソーシアムが設立されました。
現在、カルネット コンソーシアムは設立4年目を迎え、参画企業は15社(※)になっております。なお、カルネット コンソーシアムの詳細は、https://integriculture.com/product/ をご覧ください。
(※)カルネット コンソーシアムへの参画企業(15社、50音順、2024年9月1日現在)
インテグリカルチャー株式会社、A Laboratories合同会社、旭化成株式会社、株式会社荏原製作所、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社、住友理工株式会社、大和製罐株式会社、ナカライテスク株式会社、日本たばこ産業株式会社、株式会社浜野製作所に加えて5社
■勝手場
(英語名:”Open Cellular Agriculture Technology Transfer Ecosystem” Base:Ocatté Base)
勝手場は、細胞農業における食品原料資材や細胞農業における情報の提供を目的とした細胞農業者向けマーケットプレイスです。元来、勝手場とは、台所(キッチン)のことで、日本の食文化の基礎を築いた場所でもあります。本サービスは、世界中の誰でも台所で料理をするのと同じように培養肉を調理できる未来の実現、さらに、その先にある新たな食文化の開花を期待して「勝手場」と名付けました。
食品原料由来の培地を始めとする培養関係資材に加えて、培養肉の研究開発を進める中で蓄積された知見と経験は、本分野における検討・事業化を進めるためのキーエレメントになります。本サービスでは、これらの必須要件をいち早く開放・提供することによって、細胞農業に参画を目指す企業様が、よりスムーズに検討・事業を開始できるような環境の構築をサポートします。
【本件に関するお問い合わせ先】
インテグリカルチャー株式会社 お問い合わせ窓口
<info@integriculture.com>
受付担当
事業開発部 支援事業チーム 鞆(とも)
事業開発部 共創事業チーム 波多野