インテグリカルチャーとJT/テーブルマーク高加工度の原料使用を最小限に抑えたバルク原料ベースの基礎培地「I-MEM(アイメム)2.0」の開発に成功
〜従来の基礎培地よりも低環境負荷・低原料コストの培地の実現に前進〜

動物由来細胞から食品や原料などを作る「細胞農業」で持続可能な世界の実現を理念とするインテグリカルチャー株式会社(本店:東京都文京区、代表取締役CEO:羽生 雄毅、以下インテグリカルチャー)は、当社が発起人となり設立した細胞農業のオープンイノベーションプラットフォーム「CulNet®︎(カルネット) コンソーシアム」(以下カルネット コンソーシアム)において、上記理念に共感する日本たばこ産業株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:寺畠 正道、以下、JT)およびJTの連結子会社であるテーブルマーク株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:吉岡 清史、以下、テーブルマーク)との共同研究により、バルク原料※1である酵母エキスを用いることで、高加工度の原料使用を最小限に抑えた、食品原料からなる基礎培地「I-MEM(アイメム)2.0」の開発に成功しました。

※1:バルク原料とは、一度の製造プロセスで大量に生産・使用される原料を指します。このようなバルク原料を活用することで、生産効率が大幅に向上し、製造プロセスも短縮されるメリットがあります。特に、今回開発に使用した酵母エキスは、食品産業で広く利用されており、一度に大量生産・使用を想定した原料となっています。

「I-MEM2.0」は、従来の市販の基礎培地と比べて、原料コストの大部分を占める精製度の高いアミノ酸原料の削減を実現しました。これにより、原料品目数の削減とそれに伴う製造工程の削減が可能となり、製造コストの低下や、環境負荷の軽減が期待できます。

最近の研究※2では、”医薬品等で想定されている精製レベルの高い原料を使用した基礎培地による細胞性食品生産は、従来の畜産による食肉生産と比べ、環境負荷が大きい”と試算され、細胞農業では環境負荷を下げられないという懸念が指摘されました。この問題を解決すべく、細胞農業業界において医薬品等で使用するような高加工度の原料の使用を抑えた「バルク原料を使用した基礎培地」による環境負荷削減の可能性に注目が集まり始めています。

※2:Environmental impacts of cultured meat: A cradle-to-gate life cycle assessment
Derrick Risner, Yoonbin Kim, Cuong Nguyen, Justin B. Siegel, Edward S. Spang
bioRxiv 2023.04.21.537778; doi: https://doi.org/10.1101/2023.04.21.537778

今回、インテグリカルチャーが持つ細胞性食品に関する知見と、JT加工食品事業の研究部門であるテーブルマークの食品総合研究所が、これまで培った食品用酵母に関する製造・応用活用の技術に加え、細胞培養への食品酵母活用の知見を組み合わせた共同研究により、「I-MEM2.0」の開発に成功しました。「I-MEM2.0」は、ウシ筋肉由来細胞をはじめ、アヒル肝臓由来細胞、ニワトリの5つの臓器(筋肉、肝臓、腎臓、肺、脳)由来細胞の初代細胞※3のほか、ラット由来肝上皮細胞※4(RL34細胞)などの株化細胞※5の培養が可能であり、特定の細胞種に限定せず、細胞農業用の基礎培地として幅広い活用が期待できます。「I-MEM2.0」は現在、特許を出願中であり、近年中に製品販売を予定しています。

※3:初代細胞とは、生体組織から直接入手する細胞
※4:上皮細胞とは、体や体腔、臓器などの表面を覆う細胞
※5:株化細胞とは、主に研究用途で用いられる、無限に増殖することが可能になった細胞

インテグリカルチャー株式会社 代表取締役CEO:羽生 雄毅
食品メーカーとして多大な知見を保有するJT様との「I-MEM2.0」の共同開発の成功は、当社の使命である細胞農業インフラ構築を加速させる大きな一歩だと考えています。これまでの基礎培地と比較して加工度の低い原料を組み合わせた「I-MEM2.0」は、低環境負荷かつ、持続可能な食糧生産への貢献を約束するものだと信じています。これからも当社は、積極的なパートナーシップ形成によるイノベーションを通じて、来る世界の食糧危機等の解決や、宇宙での食料生産技術の確立を目指して、次なる未来を創り上げて参ります。

日本たばこ産業株式会社 執行役員 食品事業担当:古川 博政氏
JTの加工食品事業は、パーパス“食事をうれしく、食卓をたのしく。”を中長期的に実現し続けるために、進化する技術を積極的に活用しながら、新たな食の開発に取り組んでおります。インテグリカルチャー様とのパートナーシップ、及びカルネット コンソーシアムへの参画はまさにその一環であり、今回の共創成果である「I-MEM2.0」が細胞農業の発展に貢献できることを嬉しく思っています。今後も、JTグループは、これまで培った多様な食の開発技術に加え、新たな領域への研究開発を促進し、持続可能な食産業の構築に貢献して参ります。

■CulNet®️(カルネット) コンソーシアムについて                                                                                                                                            
2050年には世界人口が100億に達すると見込まれ、エネルギー、飼料、土地、水などの枯渇により、これまでの方式では重要な栄養であるタンパク質の供給が追いつかなくなると試算されています。食肉に代わるタンパク質源として、例えば植物由来原料や昆虫などが商品化され認知が広がっており、より食肉に近い代替タンパク質の生産方法として細胞培養による培養肉が注目されています。しかし、現状はコスト面、安全面、製造規模面の課題が山積しています。そのため、カルネット コンソーシアムは、様々な領域、業界での企業様にご参画いただき、オープンイノベーションにより、培地、足場、装置などの課題を共同で解決し、将来的なサプライチェーンを構築することを目的に2021年4月1日に設立しました。カルネット コンソーシアムは設立3年目を迎え、参画企業は12社(2023年9月19日現在)となりました。
カルネット コンソーシアム詳細:https://integriculture.com/product/

■I-MEM(アイメム)について
インテグリカルチャーはこれまで培った細胞性食品研究から、創薬や再生医療等のバイオ産業で広く使われている細胞培養用溶液である最小必須培地(Minimum Essential Media:MEM、メム)を、独自に食品原料のみで再構成した基礎培地を「I-MEM」(IntegriCulture - Minimum Essential Media:I-MEM、アイメム)を開発しました。I-MEMは、細胞培養に欠かせないアミノ酸や糖類を、食品として認可されている成分のみで作った可食性の基礎培地でもあります。これまで、インテグリカルチャーでは、MEMの原料を食品で置き換えた培地をI-MEMとして販売していましたが、本プレスリリースの「I-MEM2.0」の販売開始に伴い、これまで販売していたI-MEMを「I-MEM1.0」として再定義し研究開発用として販売を継続していくことを考えています。

I-MEM1.0に関してのお問い合わせ:https://integriculture.com/product/imem/

■ インテグリカルチャー株式会社について < https://integriculture.com >
独自開発の細胞培養技術「CulNet® system (カルネット システム)」を、食品・素材・皮革などをつくるバイオ資源生産技術のプラットフォームとして開発し、様々な分野で活用する未来を目指しています。
カルネット システムは、動物体内の臓器間相互作用を模した環境を擬似的に構築する装置です(特許取得済み)。本技術は、動物細胞を大規模かつ安価に培養可能で、培養肉をはじめ、様々な用途での活用を検討しており、既にラボスケールでは、高コストの一因であった血清様成分の作出を実現しています。血清様成分作出の実現により、原料調達・管理・コストで課題となる牛胎児血清(FBS)や高価な成長因子が必要なくなり、細胞培養生産の大幅なコストダウンと、より高度なサプライチェーン管理が可能になります。

■ 日本たばこ産業株式会社 加工食品事業について <https://www.jti.co.jp/food/enterprise/index.html>
日本たばこ産業株式会社の加工食品事業は、テーブルマーク株式会社を中心とした冷食・常温事業、富士食品工業株式会社を中心とした調味料事業を展開しており、それらに加え更なる事業成長に向けて従来の枠組みに捉われず様々な成長機会の探索を行っています。テーブルマークの食品総合研究所は、加工食品事業全般に係る研究開発機関として2022年に設立され、パーパス実現に向けて、将来に向けた事業シーズの探索、及び自社グループ保有技術の発展、並びに積極的に他業種、業界の皆様とのオープンイノベーションに取り組んでいます。

【本件に関するお問い合わせ先】
インテグリカルチャー株式会社 <info@integriculture.com
担当:事業開発部 鞆/研究開発部 カルネット コンソーシアム研究開発担当 波多野